再生可能エネルギーとドイツ経済

 今年6月上旬にドイツ政府は、再生可能エネルギーに関する国際会議「Renewables 2004」をボンで開催した。

* 十億人に再生可能エネを

会議終了後、緑の党に属するJ・トリティン環境大臣は、「風力、水力、太陽、地熱、バイオマスなどによる再生可能エネルギーの利用を促進するため、165のアクションプログラムが採択されたことは、大成功と言える。2015年までに世界中で10億人の市民に再生可能エネルギーで電力を供給し、地球温暖化の原因となる二酸化炭素の放出量を、大幅に減らす」と述べ、成果を強調した。

この会議でドイツ政府は、2005年から5年間にわたって、再生可能エネルギー促進のための借款の資金として、毎年5億ユーロ(650億円)を提供することを明らかにした。また中国やフィリピンは、インフラの整備によって、再生可能エネルギーによる発電量を増やすことを宣言した。さらに世界銀行も、再生可能エネルギーと、エネルギー消費の効率化措置のための融資額を、今後5年間に毎年20%ずつ引き上げる方針を明らかにした。

* テロで原油価格高騰

 この会議が始まる直前、世界の石油関連企業が集まっているサウジアラビアのアルホバルで、アル・カイダにつながりのあるテロリスト4人が、外国人のビジネスマンら多数を人質に取って住宅にたてこもり、米国人や英国人、フィリピン人ら22人を殺害するという衝撃的な事件が起きた。

しかも犯人の内3人は、サウジアラビア政府の特殊部隊に攻撃されたにもかかわらず、逮捕を免れて逃走し、同国のテロ対策が大幅に遅れていることを全世界に印象づけた。

同国での大規模テロは今年に入って三回目。このため、アル・カイダがエネルギー関連施設へのテロを今後も行うのではないかという憶測が広がり、原油価格は一時1バレル42ドルという記録的な高値をつけた。また原油価格の高騰を受けて、
OPEC(世界石油輸出国機構)は、8・5%の増産を決めた。

 化石燃料への過度の依存は、テロ組織が石油関連施設への攻撃によって、石油のスムーズな供給を妨害し、世界経済に大きな悪影響を与えることを可能にする。サウジアラビアでの事件は、世界経済のアキレス腱が中東という、不安定性が増加しつつある地域にあることを、改めて認識させた。同時にこの事件は、各国でのエネルギー戦略に関する議論を活発化させたために、ボンで開かれた再生可能エネルギーに関する会議にも、大きな関心が寄せられたのである。

* 再生可能エネに積極的なドイツ

 さてドイツは、再生可能エネルギーの促進に世界で最も力を入れている国である。現在再生可能エネルギーが電力消費の中に占める割合は6%から7%にすぎないが、環境省は再生可能エネルギー促進法(EEG)によって、この比率を2010年には12・5%に、2050年には50%に引き上げるという野心的な計画を持っている。EEGによって送電事業運営者は、再生可能エネルギーで発電された電力を優先的に使用することを義務付けられている。

* 多額の補助金で奨励

また環境省は風力発電、太陽発電などに多額の補助金を投入しており、現在全国各地に風によって電力を発生させるプロペラが作られている。たとえば環境省は、風力で発電された電力については、1キロワット時あたり9セントの補助金を出しているが、これは通常の発電所の3倍に相当する補助金である。

この結果、再生可能エネルギーに関する市場は急激に拡大し、ドイツにはすでに約1万4000基の風力発電装置が設置された。これは世界中にある発電装置の3分の1にあたる数である。環境省は、「再生可能エネルギーによって、二酸化炭素の放出量をすでに5000万トン削減した他、13万人分の雇用が創出された」と述べ、成果を強調している。

さらにドイツ政府は、北海などの沖にプラットフォームを作って風力発電のためのプロペラを設置し、2030年までに2万5000メガワットを発電することをめざしている。

* 経済界の警告

だがドイツ政府の再生可能エネルギーの奨励策には、弊害もある。太陽発電や風力発電にたずさわる企業向けの補助金は、国民が支払う電力料金に、一種の税金として加算されている。

この国では1998年に電力市場が自由化されて、一時は電力料金が下がったのだが、再生可能エネルギー促進税や環境税などのために、2000年から再び電力料金が上昇している。ドイツ電事連(
VDEW)によると、年間電力消費量が350キロワット時の家庭で、環境関連の税金は2001年から2年間で51%も増えている。

また経済界には、「原子力を廃止して、電力の供給を再生可能エネルギーに大幅に依存することは、経済活動に悪影響を与えないのか」という疑問の声もある。実際、電力業界からは「再生可能エネルギーだけで、電力需要を十分にまかなうことはできない。赤・緑政権の方針通り、2020年に原子力を完全に廃止したら、化石燃料を使う発電所に頼らなくてはならないので、二酸化炭素放出量の削減目標を達成することはできない」と警告する。

* 競争力の育成を

連邦経済労働省のクレメント大臣も、「再生可能エネルギーにはすでに220億ユーロ(2兆8600億円)の補助金が投入された。風力発電にはすでに石炭を上回る補助金が注ぎ込まれており、今後はこの種のエネルギーの奨励は、経済性を配慮して行うべきだ」と主張し、環境省の補助金拡大に歯止めをかけるよう求めている。

サウジアラビアの情勢が示すように、石油への過度な依存は危険だが、シュレーダー政権が長期的にどのような道筋で、エネルギーの安定供給を確保しようとしているのかについて、明確な青写真を描けていないことも事実だ。

再生可能エネルギー関連産業に補助金を気前良く与えるだけでは、経済的な競争に耐える力が育たず、補助金を廃止した時に市場が急速に縮小する恐れもある。環境省は、「経済性にも配慮した、バランスの取れたエネルギー戦略を打ち出すべきだ」という経済界の主張にも、耳を傾ける必要があるのではないか。


週刊 ドイツニュースダイジェスト 2004年8月13日